このブログでは、J-popの様々な名曲を、コード、メロディー、リズム、歌詞などのいろいろな観点から分析しています。
今回は、J-popに革命をもたらしたとも言われる、Official髭男dismの「Pretender」を分析していきます。
曲紹介
基本情報
2019年4月17日に配信開始。バンドとしては「ノーダウト」に続き2作目のシングルとなる。映画『コンフィデンスマンJP -ロマンス編- 』の主題歌として書き下ろされたが、映画のヒットも相まって瞬く間に大ヒット。オリコン週間ストリーミングランキングでは34週連続で1位を獲得するなど、J-pop界に激震を走らせたまさに伝説の一曲である。
ちなみにコンフィデンスマンJPの制作側はこれに味をしめたのか、歴代の4つの作品の主題歌は全てOfficial髭男dismが担当している。
主なチャート成績
・Billboard Japan Hot 100 2019年度年間3位
・Billboard Japan Hot 100 2020年度年間2位
・Billboard 週間ストリーミングチャート 通算35回首位(史上最多)
・Billboard Japan ストリーミング再生数9億回突破(史上3曲目)
・オリコン 週間ストリーミングランキング 200週連続Top50入り
・Billboard 通算チャートイン回数 277回
曲分析
コード進行については、ChordWiki(ChordWiki : コード譜共有サイト 〜無料の歌詞とコードをシェアしよう)を参照しています。
また、著者の勉強不足により説明が間違っている箇所がある可能性がございます。見つけた場合は、お問い合わせフォームでご指摘いただけると助かります。
キーはAbメジャー、BPMは92とやや遅めです。
イントロ
Ⅰadd9・・・(×4小節)
Ⅰadd9 | Ⅴadd9/Ⅶ Ⅲaug7 Ⅲ7 | Ⅵm7 |Ⅱm7 Ⅱm7/Ⅴ |・・・(繰り返し)
ギターの特徴的なリフ(繰り返す短いフレーズのこと)から曲が始まります。このリフはAメロの最後までずっと後ろで鳴り続けています。
個人的な印象ですが、髭男はadd9をよく使う傾向にある気がします。その方が、Ⅰという単調なコードにちょっとだけ情緒が出るので、それが髭男の曲調に合うんだと思います。
2小節目では、Ⅴ→Ⅲの経過音としてⅢaug7が使われています。このオーギュメントの解釈ですが、Ⅲaug7とⅢ7は構成音がほぼ同じで、第5音がドかシか、という違いだけです。つまり、ド→シという半音進行によって、なめらかに移行するように経過音的に挿入されていると考えられます。
Ⅲ7はⅥm7へのセカンダリードミナント。4小節目はツーファイブですが、ルートだけ変化するという形をとっています。
1番-Aメロ
Ⅰadd9 | Ⅴadd9/Ⅶ Ⅲ7 | Ⅵm7 |Ⅱ9 | Ⅱm9 | ⅣM7 ⅣM7/Ⅴ |
君とのラブストーリー それは予想通り いざ始まれば ひとり芝居だ ずっとそばにいたって 結局ただの観客だ
Ⅰadd9 | Ⅴadd9/Ⅶ Ⅲ7 | Ⅵm7 |Ⅱ9 | Ⅱm9 | ⅣM7/Ⅴ | Ⅰadd9
感情のないアイムソーリー それはいつも通り 慣れてしまえば 悪くはないけど 君とのロマンスは人生柄続きはしないことを 知った
コードの基本の流れはイントロと同じです。ですが4小節目でⅡ9というコードが出てきました。なぜマイナーでなくメジャーにしたのかという点についてはいろいろな考察ができそうですが、Ⅱ→Ⅱmという流れがなんか地味に良い味を出しているのではないかと思います。
こうやって並べてみると、歌詞が見事に韻を踏んでいますね。今じゃ韻を踏むのは当たり前というくらいになっていますけど、韻を踏みつつ曲の情景を崩さない歌詞を作るというのはなかなか大変なことですよ・・・
1番-Bメロ
ⅣM9 Ⅲ7 Ⅵm7 | Ⅴm7 Ⅴm7/Ⅰ ⅣM9 | Ⅲ7 Ⅵm7 | Ⅴ#dim7 Ⅴm7 Ⅳ#m7-5 ⅣM9 |
もっと違う設定で もっと違う関係で 出会える世界線 選べたら良かった
Ⅲ7 Ⅵm7 | Ⅴm9 Ⅰ9 ⅣM9 | Ⅲ7 Ⅵm7 | Ⅳ#m7-5 |Ⅱm7 | Ⅱm7/Ⅴ |
もっと違う性格で もっと違う価値観で 愛を伝えられたらいいな そう願っても無駄だから
Bメロは、コードのシンコペーションが特徴的です。シンコペーションというのは簡単に言うと、通常の拍よりもワンテンポ速く音が鳴るということです。これにより、一気に雰囲気が変わったような感じがします。
コード進行はJust of us進行(4361)がベースとなっています。2小節目にあるⅤmはよく使われるノンダイアトニックコードの一つで、僕の大好きなコードの一つでもあります(聞いてない)。それがなぜ使われているかというと、黄色マーカーで引いた「Ⅴm→Ⅰ→Ⅳ」が下属調におけるツーファイブワンだからです。一時的な下属調への部分転調といえます。
赤のマーカーの部分は、半音ずつ下がっていく進行となっています。あんまりクリシェっぽくはないですけど、これもクリシェって言っていいんですかね。別にもっとシンプルにⅥからⅢにつなげる方法はあると思うんですけど、わざわざハイテンポなクリシェを入れ込むことによって一気にオシャレさが増しています。
また、8小節目にはⅣ#m7-5というコードが登場しています。J-popでは意外と、このⅣ#m7-5への着地というのが時々見られます。ただ、Ⅵから直接Ⅳ#m7-5へ進むのはあまり見かけない気がします。
1番-サビ
Ⅰ | Ⅴadd9/Ⅶ Ⅲ7/Ⅴ# | Ⅵm9 |Ⅴm11 Ⅰ7 | ⅣM9 | Ⅲm7 | Ⅰadd9/Ⅱ | Ⅱm7/Ⅴ Ⅱm7-5/Ⅴ
グッバイ 君の運命の人は僕じゃない 辛いけど否めない でも離れ難いのさ その髪に 触れただけで痛いやいやでも 甘いないやいや
サビは弱起で始まります。弱起というのは簡単に言うと、サビの小節が始まる前にメロディーが先行することです。サビ頭の弱起はかなりキャッチーに聞こえるので、最近の曲でも頻繁に用いられている印象です(今に始まったことではないですが)。
実際この「グッバイ」は歌詞の意味を通らせるという目的では別になくてもいいフレーズですが、これがあることによってサビが印象的になり、多くの人の耳に残るようになるのです。
さて、2小節目の二個目のコードは、今までⅢ7だったのが第一転回形であるⅢ7/Ⅴ#になっています。2小節目のルート音の変化を辿るとⅦ→Ⅵ→Ⅴ#となっており、流れが美しく聞こえます。Ⅲ7の役割は変わらずⅥmへのセカンダリードミナントです。
また、4,5小節目はBメロにもあった下属調のツーファイブワンですが、先ほどとは異なりⅠ7となっています。Ⅰ7は次の小節の頭にⅣが来るときの繋ぎとして用いられることが多い印象です。これは、Ⅰ7の七度の音であるシ♭からⅣの三度の音であるラへと半音でつながるためだと考えられます。
5小節目以降は、Ⅳ→Ⅲ→Ⅱと順次下降していく進行となっています。8小節目では、Ⅱm7/Ⅴの後に経過音的にⅡm7-5/Ⅴが挟まっています。これは別記事でもチラッと紹介しましたが、「いやいや」という歌詞のタイミングで強烈な哀愁を漂わせるコードとなっています。
Ⅰ | Ⅴadd9/Ⅶ Ⅲ7/Ⅴ# | Ⅵm9 |Ⅴm11 Ⅰ7 | ⅣM9 | Ⅲm7 | Ⅴsus4/Ⅱ | Ⅴ | Ⅰadd9
グッバイ それじゃ僕にとって君は何? 答えは分からない 分かりたくもないのさ たった一つ確かなことがあるとするのならば 「君は綺麗だ」
サビが繰り返されます。基本的にコード進行は同じなので、ここでは歌詞にフォーカスしたいと思います。
この曲では全体的に、主人公(男?)が好意を寄せていた相手に失恋したが諦めきれないという心の中の葛藤のようなものが語られています。それにしても、サビ頭の「君の運命の人は僕じゃない」ってなかなか辛い言葉ですよね。その後の、髪に触れて「痛い」けど「甘い」という表現は不思議ですね。相手の髪に直接触れたかどうかは置いといて、髪に触れただけで失恋した辛さの「痛み」と、やっぱり好きという「甘さ」を感じてしまうということなのでしょうか。
また、サビ最後の「君は綺麗だ」にはカギ括弧がついており、今まで語り口調だったところに突然主人公の心の声がそのまま描写されることによって、主人公の気持ちが生々しく映し出されているように感じました。
2番-Aメロ、Bメロ、サビ
コード進行1は1番とほぼ変わらないため、歌詞だけ載せることにします。
誰かが偉そうに 語る恋愛の論理 何一つとして ピンとこなくて 飛行機の窓から見下ろした 知らない街の夜景みたいだ
もっと違う設定で もっと違う関係で 出会える世界線 選べたら良かった いたって純な心で 叶った恋を抱きしめて 「好きだ」とか無責任に言えたらいいな そう願っても虚しいのさ
グッバイ 繋いだ手の向こうにエンドライン 引き延ばすたびに うずき出す未来には 君はいない その事実にCry・・・ そりゃ苦しいよな
二番のAメロは一番と違ってポップな(?)リズムになっています。全く同じ雰囲気だと聴いている側が飽きるから、というのも勿論ですが、主人公の心情の微妙な差異を表現しているのではないかとも考えられます。
Aメロの歌詞ですが、「ピンとこない」のたとえを「飛行機の窓から見下ろした知らない街の夜景」と表現しているのは面白いですよね。ボーカルの藤原さんが飛行機に乗っているときにピンときたのでしょうか。
間奏、ラスサビ
間奏では特徴的なシンセソロが流れています。Youtubeやtiktokなどでこのシンセソロのカバー動画を投稿しているのをよく見かけます。実際めちゃくちゃかっこいい。後半にかけて上がっていく感じが非常に印象的です。実際に藤原さんが演奏しているところは、公式チャンネルが出している制作ドキュメントの動画で見ることができるのでぜひご覧ください。
ラスサビは一番のサビと全く一緒なので省略します。
後奏
ⅣM9 | Ⅰ/Ⅲ | Ⅱm11 Ⅲ7 | Ⅵm Ⅰ/Ⅴ | ⅣM9 | Ⅰ/Ⅲ | Ⅱm11 | Ⅱm7/G |
(それもこれもロマンスの定めなら) 悪くないよな (永遠も約束もないけれど) 「とても綺麗だ」
後奏では、ギターの小笹さんとベースの楢崎さんによるコーラスが入ります。美しい声に思わず魅了されてしまいます。
最後に、主人公の心からの声である「とても綺麗だ」という言葉で締めくくられます。これが「君は綺麗だ」じゃないところに、藤原さんの工夫を感じます。
まとめ
今回はOfficial髭男dism「Pretender」を分析してみました。
今後も様々な曲の分析をあげていこうと思っているので、ぜひご覧ください。


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